Sunday, October 26, 2014

映画『初恋のきた道』



◇STAFF
監督:チャン・イーモウ
脚本:パオ・シー
音楽:サンパオ

◇CAST
チャン・ツィイー/チョン・ハオ/スン・ホンレイ/チャオ・ユエリン

(2014.10.26 テレビで鑑賞)

チャン・ツィイーは『SAYURI』で知った女優。その女優のデビュー作が今作ということはずっと前から知っていて,何度かテレビで放送していたのだけど,なぜか観るには至らなかったのでした。
深夜日テレで放送していたので,今回はちゃんと録画して観ました。

89分という短めの映画なのだけど,とってもピュアでストレートな気持ちに触れることができたなぁと思いました。

でもって観てて「アレ?」って思ったのですが,


若き日のチャン・ツィイーが,榮倉奈々と吉高由里子に似ている…!


顔は榮倉奈々,目の感じとか演技は吉高由里子を彷彿とさせるのです…。
多分吉高由里子要素は,おふたりとも斜視が入っているからかなと思います。
そう見ると,やっぱり日本も中国も同じアジア圏なんだな…。

話は「父」が亡くなったという一報を受けるところから始まるのだけど,画がずっとモノクロで。
ぶわぁ~っと色がつくのが,「母」の若かりし頃,「父」がこの村にやってきたシーン。母の心の色は,きっとこうなんだろうなと思いながら見ました。

とにかくチャン・ツィイーがピュアでピュアで。
本当に“初恋”ってこんな気持ちだったよなぁと思いました。
なるべく相手の目を引きたいって思って,がんばって自分なりのおしゃれをしたり,相手が触りそうなところに物を置いたり。わざと遠回りしたり。笑
大きな自然の風景が,チャン・ツィイーのまっすぐな気持ちを引き立たせてくれたなと思います。

「父」が亡くなって,映画の冒頭で「担いで帰りたい」「布を織りたい」と主張する「母」はとても我が強い…!と思ったのですが,若かりし頃のエピソードを追っていると,そうしたくなる気持ちがわかるような気がしました。
映画では,二人が結ばれたあとの様子は一切描かれていないのだけど,きっとチャン・ツィイーにとってはとても幸せな日々だったのだろうと思います。

タイトルは,原題が『我的父親母親』,英題が『The Road Home』。でも邦題の『初恋のきた道』って,ほんとうにぴったりなタイトルだなって思います。あの道が,父と母をつなぐすべてだったから。

文化的なところで見ると,学校の建物の障子なんかは日本と共有できるものを感じるし,先生の着ているものとか髪型なんかは今でも北の国のひとがしている格好にも思えます。チャン・ツィイーと榮倉奈々じゃないけど,(あぁ,繋がってるんだなぁ…)と感じました。

みずみずしくて…本当にピュアな気持ちになれました…。
他のツィイー作品も,ちゃんと観たいなぁと思います。

Tuesday, October 21, 2014

映画『私の男』




◇STAFF
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:桜庭一樹
音楽:ジム・オルーク

◇CAST
浅野忠信/二階堂ふみ/高良健吾/藤竜也/モロ師岡/河井青葉/山田望叶 他

(2014.10.21 劇場で鑑賞)

このポスターを一目見たときから,ずーっと観たかった作品。
大学の先輩からは,「レイトショーくらいがちょうどいいよ」と言われていたのだけど,
朝の10時半から観てしまいました…。(多分先輩は,料金のことを言っていたのだと思う。)



濃厚な蜂蜜を一気飲みしたら,こんな世界なのかもしれない。



そんなふうに思いました。



何かの評で,「徐々に“私の男”になっていく」という言葉を読んだのですが,まさしくその通り…。

二階堂ふみの演技が,ほんとうにいいよね。

中学生の,ドロドロして自他が未分化の状態から,
大人の艶っぽさと落ち着きを手に入れるまでが,ほんとうに…化けてる。

婚約者が出てきて,「どうしたのその格好」と浅野忠信に聞いているのを観て,(あぁこのひとはこの男を捨てて生きていくのかな)と思ったんですが…。やってくれましたね…。
ラストの二階堂ふみのどアップが,たまらなくよかった。

うん。未分化なんだよ。二階堂ふみ。
混沌としてて,愛も正義も罪も脆さも,ぜんぶ抱えて生きている感じ。
でも大人になって「(浅野忠信のことが)わからなくなってきた」って言ったのは,きっと少しずつ分化してきたからなんだろうな。

あと,山田望叶ちゃんが良かった。
あの黒目の大きさはなんなんだろうか…。笑
もちかちゃんと言えば『花子とアン』のはな役のイメージしかないのだけど,深い演技もできる子なんだなと感じました。
あの子が二階堂ふみになるのかと思うとフクザツな気持ちですが,もちかちゃんの声で「キスして」というせりふが出てきたとき,何かがつながっていく感じも。
(そういえば今回の役も「花」なのね,もちかちゃん…)


いちばんインパクトのあったところは,やっぱり淳悟と花の血まみれのセックスシーン。
実際にはありえないのだけど,ふたりの世界観がよく表れていて,すんなり観れました。
服も髪も血まみれになっていくにつれて,ふたりが堕ちていくのがくるしいくらい伝わってきました。

その前にも小町と淳悟がセックスしているシーンが結構長めにあるのだけど,対照的に見えたなぁ。
ある意味形式的な小町と,心を埋めるための花。やっていることは同じようなことなんだけど,質が全然違うというか。うまく言えないけど。
あと,河井青葉さんて今回初めてまともに見たのだけど,体が超絶きれいじゃないですか…。
裸の後ろ姿とか,同性としてすっごいうらやましすぎる…。笑
なんとなく雰囲気が深津絵里に似てますね…。


浅野忠信は,とても不器用なニンゲンの役がぴったりですね…。
もちかちゃんにかける声の,第一声があれなのか,と。
でも車の中で手をぎゅっと握るところなんかは,ノンバーバルでもちゃんと彼の気持ちが流れているように思いました。
徐々に自分が老いていって,二階堂ふみが自分の届かないところに行ってしまうと感じている退廃的な部分が,観ていて切なかったです。高良健吾を脱がして,二階堂ふみと同世代の男ってどんなもんなのか確かめて。それで「お前には無理だよ」って言う。なんてしがみつく男なんだろうと思いました。
でも,「俺は親父になりたかった」って言ってて,あぁそうなんだ。とも。
本当に不器用で,他の方法を知らないひとだなと思います。
親として子どもを育てていたというより,男として小さな女の子をずっと育ててきたんだろうな。
そういう意味では,現代版『源氏物語』なのかもしれない…。

瞳が,とてもよかった。浅野忠信も,二階堂ふみも,山田望叶も。
あと,三浦貴大の健康度の高さが際立っていた…。笑
彼はああいう役がほんとうに合うと思いました…。

そうそう。最後に脱線すると,ドボルザークの「家路」が多用されていて,思わず2013年7~9月にやってたドラマ『Woman』を思い出しました。あれにも二階堂ふみ出てたから。
私も好きな曲なので,よかった。メインで使われる部分と曲の終わりの部分で,雰囲気がちょっと変わっていいな。

そんでもって,私北海道に行ったことはないのだけど,あの常に曇天か雪という環境から,内にこもる世界の人々の心情と生活がわかるような気がしました。
自然が,美しかった。ほんとうにその世界に生きているんだなって,思わせてくれました。


ラストの二階堂ふみと浅野忠信の顔を観るためにあった129分。
劇場で観てよかったです。

Saturday, October 18, 2014

Spinnin Ronin Japan『SKY RUNNER』 (Bキャスト)


@d-倉庫

演出:加世田剛
脚本:亀山らく

出演:横山真希/吉田憲章/松井翔吾/井狩善文/大西まさし/蓮根わたる/栗栖裕之/田内友里愛/小田洋輔/三浦奈々子/渡邉力/椎田香王子/芳村大樹/BOMBER(ビートボクサー)

スピニンの公演は『Xuanzi Girls』『積む教室』と観てきましたが,今回が一番よかった…!
そして松たか子のように,年に一回はマキの出る舞台に行かなければと思いました…。(私の中で,松たか子→年一回舞台で拝むことが目標なのです!笑)

「夢を追い続ける少年」「周囲とのギャップ」「挫折を乗り越えて栄光をつかむ」
というあたりは,『積む教室』にも見られて,加世田さんがお好きな作風なのかなという感じがしました。
確かにそうだったんですが,でも…前作とは何かが大きく違いました…。なんだろー……ダンスの存在?群舞って,ぐっときますね…。なんだか泣きそうになっちゃいました。
ゴスペルとかマイケルジャクソンとか(←ですかね?ちょっと自信ない…),スラムを意識して使っているのかな~と思ったんですが,曲だけ浮いちゃう…ということがなかったので,すごいなと思いました。


中学の部活の同期,マキちゃんを観に行ったということもあってバイアスかかってますが,それでもマキが本当に素敵でした!!!
あのキレッキレのダンス,キュートな笑顔にめろめろしてました。笑
「夢を語るのは,夢を追いかけてる人だけにしてほしい」という(ような)せりふが,本当にぎゅっときました。感情は爆発してるのに,抑えてる・抑えようとしてるところが痛いくらい見えて,伝わって,良かった…。
あと農場のおじさんを発見するに至る説明のシーンがものすごくキュートだった…☆「これ家,再び」とか「風,葉っぱ,痛い~」のあたりとか,なんておちゃめなの…!同い年のはずなのに同い年に見えない…!
本当に本当に素敵でした(´▽`人)♡♡

あと,Bキャスト主演の松井翔吾さんが素敵だったなぁ。カーテンコールでものすごく充実したお顔をされていて,こちらも(あぁ~よかったーーー)と思いました。
私と同い年なのですね…!これからも細々と応援していきたいです!(ちなみにイケメンだった…)

あとあと,今回加世田さんが裏方として客席案内の人をやっていたのでびっくりしました。笑
素の加世田さん,暖かい方ですね…。笑

あとあとあと,井狩善文さんのタッパがすごくて,ラスボス感がありました。笑


やっぱり美しい体って,良いですね…。あっ,やらしい意味ではなく,芸術だなーって思います。Noismとかでも感じる美しさ。
みなさん舞って踊ってお芝居できるから,すごい。めちゃくちゃパワー充電できました。


あまり感想らしき感想になってないですが,身体表現ってステキ!と改めて思った作品でした。
そうそう。衣装も統一感があって素敵でした。黒と,赤。マキがつなぎ脱いだら赤だったので,(おぉ~っ)と思いました。笑


そういえば,d-倉庫って今回初めて行きました。
ずっと行ってみたいなーと思っていたんですが,機会がなくて。
GPS使って地図見ながら行ったのに,そのあたりに差し掛かったところでお隣の謎の教会から合唱?歌が聴こえてきて,さらにその横で「~~~はこちらでーす」と言っているおねえさんがいて,(あぁぁ勧誘されるー)と思って通り過ぎてしまいました。笑
「~~~はこちらでーす」と言っていたのは,教会の勧誘のおねえさんではなく公演のおねえさんだったようです…。日暮里,面白い街でした…。

来年はシアターχで公演があるそうです。そこも行ったことないので,マキちゃん追いかけてデビューしてみたいものです。
スピニンのみなさん,パワーをありがとうございました♪

Monday, October 13, 2014

映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』



◇STAFF
制作・監督・脚本・撮影・編集:太田信吾
フィクションパート撮影:岸健太朗
録音:落合諒磨
音楽:青葉市子 (制作)曲淵亮/本山大
共同プロデューサー:土屋豊
製作:MIDNIGHT CALL PRODUCTION

◇CAST
増田壮太/冨永蔵人/太田信吾/増田博文/増田三枝子/坂田秋葉/平泉佑真/有田易弘/井出上誠/坂東邦明/吾妻ひでお/安彦講平 他

(2014.10.6 劇場で鑑賞)

大学の先輩が「観に行ってきた」とTwitterでつぶやいているのを見て,タイトルに惹かれました。
ネットで検索してみたら,その内容にも興味がわき,時間を作って足を運んできました。

谷川俊太郎は「あらすじに要約できない」とこの映画についてコメントしているのだけど,本当にその通り。
この映画の主要人物,増田壮太とその自殺をめぐるあれこれを,フィクションのカットも交えてとらえているドキュメンタリー映画。としか,今の私にはまとめる力がないです。

…酔いました。

初めて映画で酔いました。

それは撮り方の問題なのか,私の感覚過敏なのかわからないけど,
カメラはぶれぶれなところが多かったし,増田さんの声は通る声をしていたし,マイクは声を拾いすぎていた。
そういう要因もあったのだけど,きっとこの気持ち悪さは,増田さんが生きていたときに味わっていた気持ち悪さなのだろうと,途中から思うようにしました。

私も中学生や高校生の頃,演劇をしていました。
私は演劇よりももっと興味のあることがあったから,大学では全く違うものを勉強したし,蔵人さんのように「趣味」として演劇と付き合っていくことに決めていました。

それでも県大会に進んだり,関東大会に進んだり,劇場が市民とつくりあげる芝居に部活の同期や先輩が参加していい役もらっていたりと,地元ではそれなりに評価されることもあったので,
「芝居で食ってく」
と思ったひとは,私の周りにも確実にいました。
今,夢を叶えたひともいれば,諦めて地元で主婦をしているひともいます。音信不通になったひともいます。

増田壮太は,決してとくべつなニンゲンではないのだと,この映画を通して強く思いました。


映画の冒頭で,増田さんが東京から地元の埼玉に帰るシーン。
私からしたら,「それでも埼玉(=都心)でしょ」と思うのですが,きっと距離の問題ではなくて,実家に出戻るという行為自体が,「現実はあまくない」「夢が閉ざされる」というようなことに直面させられることなのだろうと思います。

あと,「映画の一本でも撮ってみろよ」と監督の家で包丁をテーブルに突き刺して迫るシーン。
あれは,「プロにふさわしい一曲でも作ってみろよ」と,増田さんが自分自身に向けて怒鳴っているようにも聴こえて,切なくなりました。きっとそうなんだと思います。ドッキリと言っていたけど,意識的であれ無意識的であれ,そういう意味合いも込められているのではないかと思います。


私は心理の仕事をしているから(…かはわからないけど),相手をぶちのめすような言葉はONであれOFFであれ言わないようにはしています。が,容赦なく出てきます。この作品。
罵倒というよりは,思ったことを率直に口にしている。それが潔くて,鋭くて,相手を傷つけることになったとしても,自分の心に従っている。そんな気がします。
それが「若さ」とか「がむしゃら」ってことなのだろうか。

決してきれいなものではないけど,でも人間ってそういうものだよね,とも思います。




どう生きれば,正解なのだろうか。

思い描いた世界にたどり着けない場合,どうルートを修正することが妥当なのだろうか。

自分が満足できる人生とは何なのだろうか。


そんなことを突き付けてくる映画。




それから,私は,死ぬ理由が生きる理由を上回ったときが死に時だと思っているのだけど,
増田壮太は本当にそれを示しているひとだなとも思いました。

生きる理由と死ぬ理由は不等号で表せる。
なんとなく人生の風に吹かれて,今の私は生きる理由が上回っているのだけど,少しずつ少しずつ風に吹かれて,くるっとひっくり返っていったのが増田壮太なんだろうと思います。



最後に,『わたしたちに許された特別な時間の終わり』の“特別な時間”とは,何のことを指すのでしょう。

わたしだったら,高校の部活の時間だったかもしれない。
モラトリアムを満喫した大学生~大学院生の7年間だったかもしれない。
もっと遡って,年長の夏まで通った保育園に行っていた時間かもしれない。
それとも,人生の時間すべてかもしれない。

「許されている時間」を生きることは,とても贅沢なことなのだろうとも,思いました。

Saturday, October 11, 2014

テレビドラマ『月に行く舟』




◇STAFF
作:北川悦吏子
演出:堀場正仁

◇CAST
和久井映見/谷原章介/橋爪功/栗原小巻

昨年もこの時期のCBC制作の北川悦吏子脚本で,『月に祈るピエロ』を観ていたのです。
常盤貴子が好きなので。あと谷原章介も。
「全く会うことなく,恋に落ちることはできるのか」みたいなことに挑戦していた作品のようで,岐阜県の風景と大人な恋愛がとても素敵でした。
土曜の午後っていうこともあるのかな,ちょっとした現実逃避感もあって,観た後なんとも言えない気持ちになりました。

ので,今年も『月に~』シリーズが放送されると知り,期待しておりました(´▽`人)
ヒロインは和久井映見に。そして谷原章介の続投!

今回北川悦吏子は,最初に会って数時間で恋に落ちるかということに挑戦していたよう…。
こんなにも少ないキャストのドラマって,あまり見ない…。すごーくシンプルなところを追求しているんだなぁと思いました。
佐々波夫妻と和久井映見&谷原章介のコントラストがよかった。何十年も連れ添った夫婦と,今日初めて出会った男女。大切にしている部分が,同じ男女でも全然違うんだなぁと。当たり前なんだけど。

私も今年,すごく時間をかけて行った駅があって,そこは特急も停まるのだけどそのときは運休していて,鈍行も間引きで運転しているから,昼間はすごく静かなところでした。
岐阜県は私の出身,長野県の隣だから,自然の感じとか,どことなく似ていて,親近感。
エンドロールの川の音とか,鳥のさえずりとかもよかったなぁ。
CGたっぷりの,VFXたっぷりの,効果音たっぷりの現代的なドラマももちろん素敵なんだろうけど,このドラマは自然そのものが効果的に使われていて,良かったです。花とか。

あとはやっぱり北川悦吏子の言葉が素敵だった。
90分観て,一番印象に残ったせりふは↑の画像にも書かれているけど,

「夏の終わりに,僕たちは,おそろいの闇の中にいた」

でした。

“おそろいの闇”っていう言葉の選び方が,良い。


最後,和久井映見が「におい」を谷原章介に渡すところ,あそこがこのふたりの全てなんだろうなと思いました。
言葉でもなく,キスでもなく,におい。
きっとこの先どんなにおいに触れても,たとえ同じにおいの別のひとに出会っても,その人以上に蘇る思い出はないんだろうなと思うと,においとは,とても強い存在です。目に見えないのに。

同時に相手を縛ってしまうものでもあるのに,谷原章介はあのコロンをこの先どうするんだろう。


じわじわ,じわじわくる大人の作品。(このあとふたりはどうなるんだろう)と,ドキドキハラハラというより,ときときする感じで観てました。昨年の『月に祈るピエロ』とあわせて,DVDにならないかなぁ。

テレビドラマ『聖女』(全7話)



◇STAFF
脚本:大森美香
演出:日比野朗/水村秀雄
音楽:吉俣良

◇CAST
広末涼子/永山絢斗/蓮佛美沙子/岸部一徳/田畑智子/田中要次/浜野謙太/森岡豊/大谷亮介/中田喜子/筒井真理子/青柳翔/安藤玉恵

2014年8月~10月にNHKで放送

ちょうど一年前に,同じ枠で『ガラスの家』を観ていたのだけど,なんだかいまいちしっくり来ず,ぷしゅう…という気持ちになっていたのです。
広末涼子が悪女役&また同じ枠に永山絢斗が出る!という興味本位で観てみました。

結果→意外と面白かった…!
夏ドラマと秋ドラマの間を埋めてくれるドラマになりました…。

広末涼子が,本当によかった…。
表情がとても良い!!!
裁判中の歪んだ表情とか,晴樹を見てきゅんきゅんしてる瞳とか,本当に素敵だった。
そして横顔が良いよね…。最終話のベッドでのシーンとか,美しかった…。
立ちすくんでいるところとかも,ふと広末涼子の顔が中世の絵に出てくるような女性の顔に見えて(顔立ち的に),なんかすごいマジックだなぁと思いました(蓮佛美沙子もキレイだけど,顔のつくりが全然違うから中世の絵には絶対に出てこない…笑)。
世間一般からしたらこの人は悪女なんだろうけど,でも裁判で永山絢斗が言っているように純粋に幸せになりたかった人なんだろうな。肘井基子は男性に対して良いイメージを持っていないから,WIN―WINの関係を求めていたんだろうと思いました。

最終話の長台詞,淡々と話しているのに厚みがあって,圧倒されました。
「あたしの本当に求めていたものは,あの日あの海にあったんじゃないかって。あたしは,大事なものを手放してしまった。あぁ…,あの日に帰って,やり直せたらいいのにって。そんな時に逮捕されて晴樹くんに再会して,それで,そんなことでもう一度生まれ変わることができるなんて思うなんて,ばかよねあたし。……愛なんて,なんであるんでしょうね。そんなものなければよかったのに。そんなものなかったら,もっと上手に生きられたのに。」

そうかぁ。愛なんてなかったら,もっと上手に生きられたのかぁ。確かにそうかもしれないなぁ。

あと,海でのこのせりふ。
「あなたを愛したこと,それだけがあたしの失敗だった。それだけが,本当のあたしだったのかもしれない。」
愛したことが失敗だったのか。「失敗」って言葉の選び方が,なんだか切なくて,でもわかるような気持ちもしました。


永山絢斗は『ガラスの家』のイメージから,斎藤工と並んで幸せになれない男…のイメージがあったんですが(笑),うん…やっぱり人間ってフクザツな生き物だわ…。

永山絢斗の演技力というより,せりふでハッとしたところがありました。
「しかし,お金をもらって何が悪いんですか?専業主婦と言われる人々は,配偶者から給料を受け取る代わりにおいしい料理を作って家を守り,愛人と言われる人々は,マンションや金を頂く代わりに生きる情熱や安らぎを与える。彼女もそうだっただけです。ただ,彼女が違ったのは正直だったことだ。『愛さえあれば何も要らない』。そんな安易な嘘をつかず,自分らしく生きるにはお金も大事だと正直に話していた。そのことだけです。」

そして演技力でぐっときたのはこれ。
「誰かを殺したいと思う人間と,本当に殺してしまう人間では決定的に,圧倒的に違うんだ」

…の,「圧倒的に」が特によかった。熱い…!
いつか幸せな役の永山絢斗を見てみたいものです。


蓮佛美沙子の演技をちゃんと見るのは初めてだったんだけど,広末涼子と戦うあたりとかすごくよかったなー。ニコニコ太陽のように笑っているけど実は動揺してたり嫉妬してたり,そういう人間味あふれるところが見られてよかった。

「過去のことはどうでもいい。ううん,本当はどうでもよくないけど,でもどうにもできないから仕方ない。」

このせりふにキューンとやられました。ときめくキューンではなく,勢いよく千枚通しでピッとやられてしまうような感じ。
仰る通りです…。
なんでも蓮佛美沙子は国会中継とかでスタパの出演が2回も潰れたらしく,不憫…!
これからも応援したい女優さんです。


あとは
田畑智子の「何言ってるんですか。悪いのは全部男じゃないですか。」がよかったり,
タクシーで広末涼子と永山絢斗が恋人つなぎするところがときめいたり,
でもタクシーのシーンはどのシーンでもなかなか発車しないのが気になったり,
青柳翔って何か見覚えあるなと思ったら『雲の階段』に出てたひとかー,ああいう役合うなーって思ったり(笑),
“基子”も“泉美”も音の響きは違うけど,原点的なイメージが同じだなと思うと面白かったり。

女の幸せと,どう生きていくかを考えさせられたドラマになりました。