Saturday, September 12, 2015

『NINAGAWA・マクベス』

(Bunkamura公式webサイトより)

@シアターコクーン

演出:蜷川幸雄
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島雄志

出演:市村正親/田中裕子/橋本さとし/柳楽優弥/瑳川哲朗/吉田鋼太郎

先日舞台を観に行ったときにもらったチラシの束を整理していたら,見つけてしまった『NINAGAWA・マクベス』。先月佐々木蔵之介の『マクベス』を観たときに,私この作品好きだわと改めて思っていたのでした。

私,お恥ずかしながら蜷川さんの舞台って今まで一本も観たことなかったんです。いつか観たいと思っていたけど,まだ大丈夫まだ大丈夫と思って過ごしていました。
でも最近の蜷川さんはお顔にチューブがついているし,移動も車イス。急がねば…!でも何を観れば良いのか!
…と,思っていたところに飛び込んできたのが『NINAGAWA・マクベス』なのでした。

あー。観て良かった。いちまんさんぜんえんしたけど,その価値はありました。

しっかり味わいたかったのでパンフレット買ったんですが,蜷川さんのエネルギーの高さに驚き…。
以下,パンフレットより一部抜粋です。

イギリス人は自国以外の人間が創るシェイクスピアを,ちょっとやそっとじゃ認めようとしません。それほど強固な自信に裏づけられている。だからこそ判定勝ちではなく,決定的な力量を示してノックアウトしなければならないと思っていました。(中略)とにかく世界演劇の中で勝とうとしたら,判定勝ちじゃ生き残れない。ノックアウトしない限りはね。若い人たちがこれを観てどう思うか聞かせてほしいですよ。「おじさん,つまんないよ」って言われるかもしれないけど,全力でやるしかありませんね。

チューブをつけて,車イスに乗っている80歳のおじさんが,こんな熱いこと考えてるんですよ。
なんてひとなんだ。蜷川幸雄よ。


観劇して思ったことは, (この年齢だから言えるせりふがあるんだろうな) ということ。
そう。思い返せば,私が観てきた『マクベス』って,内野聖陽×松たか子の『メタルマクベス』,野村萬斎×秋山奈津子の『マクベス』,堤真一×常盤貴子の『マクベス』,と佐々木蔵之介でした。佐々木蔵之介はちょっと趣向が違うマクベスなので置いておきますが,この3組っていわば中間管理職みたいな年齢のひとたちで,まだまだ伸びしろあります!ってひとたちだと思うんです。

が,今回は市村正親×田中裕子…。なんかもう,ある程度のキャリアを積んで,地位を築いている年齢。ある一定のものは手にしているはずなのに,それでも欲に食われ自滅に進んでいく。中間管理職の抱く欲とはまた違う気がして,深みというか,厚みみたいなものをお芝居から感じられました。

例えば劇中に「私は子どもにお乳を与えたことがありますからよくわかります。」みたいなせりふがあると思うんですが,秋山奈津子のせりふを聞いても常盤貴子のせりふを聞いても,なんだかこの箇所は毎回しっくりこなかったんですよね。なぜか。(あ。育てたことある………の??)みたいな。でも田中裕子のせりふは実にすーーーーーっと聞けて,自分の中にすとんと入ってきた気がしました。単に年を重ねたからかと言われると,きっとそれだけではないと思うのだけど…。過去に観た『マクベス』で聞いた覚えがあるせりふもバンバン出てきましたが,響き方がなんだか違う。NINAGAWAマジックが働きまくっている舞台でした。

それからやっぱり,男のひとは年を重ねてこそ味が出るよねぇ…。
市村正親ももちろんですが,私は特に吉田鋼太郎にうっとりでしたよ…。あの渋さ,たまらん。笑 舞台で観たのは超久しぶりだったので,胸がときめきまくりでした。
やっぱり吉田綱太郎は舞台のひとだなーというのも再認。声の通りが全然違うよね。嫁と息子を殺されて,声にならない声を出すところなんて,本当に悲痛さがあって。苦しい,悔しいという思いがうなりになると,ああなるんだろうなと思います。あー本当にしびれた。びりびりですよ…。笑
(あとすっごい余談なんですが,“鋼太郎”ってローマ字表記にするとKohtalohなんですね。hついてるし,まさかのlo!!!カッコイイ…。)

年を重ねなくても素敵だったのは柳楽優弥くん。笑
初めて舞台の柳楽くんを観たんですが,声の通りが半端じゃない!ひゃー。このひとすごい!
『メタルマクベス』で観たマルカム役の森山未來も良かったけど,柳楽くんも素敵だった。若くて,生き延びて好機を待つ,エネルギー溢れるひとマルカム。マクダフとのやりとりは,かなりぐっときました。
今『まれ』を観てるから柳楽くんのお芝居観れてるけど,声が良い役者さんはやっぱり舞台で観なくちゃね。やだー。他の作品も観てみたい!←そう。『まれ』観てるから,田中裕子と柳楽優弥という組み合わせはとってもときめきでした。

そして何を隠そう田中裕子…。私の中で田中裕子といえば『もののけ姫』のエボシ様。そして『Mother』とか『Woman』でそそっと陰から主人公を見守る役…という感じで,あと『まれ』。笑
なので田中裕子がメインのお芝居をしっかり観たことがなかったのですが,今回は堪能させていただきました…。せりふの一つ一つが重い!重いというか,深い!!聞こえは軽いのに,あとからずしっとくるこの感じはなんなんだろう!ひゃー。すごい女優さんです…。
でもって,まさか田中裕子のチェロ生演奏を聞けるなんて思っていなかったのでびっくり。笑 すごーい!弾けるんだ!と思ったんですが,パンフレットを見るとスタッフのところの「チェロ指導 溝口肇」とな…。どこまでも豪華だわ…。


そうそう。2階の客席だったんですが,1階から階段を上って移動している時から,舞台装置がちらっと見えてハッとしました。

すっごい,仏壇…!(゜д゜)

舞台が,仏壇で…。仏壇のフレームの中でお芝居が展開していって…。いつ誰を注目して見ても,この仏壇セットが必ず視界に入って,和を感じまくる作品でした。衣装も髪型も,安土桃山時代。動くのは桜の木。
徹底的な和だったのに,何も違和感を感じないのはなぜなのだろう…。役者の力量?もう,衣装も,道具も,空間そのものを役者が制圧しているから,それで成立しているから,なのかな。これもNINAGAWAマジックなのかな。

だけど舞台全体を通してアダージョとか弦楽が使われていて…。(チェロもそうだし)そういうところは和と洋の融合というか,マクベスの世界の根底に触れている気がしました。選曲のセンスも,さすがだなぁと思います。(私は自力でアダージョには気づけたのだけど,あと何が使われていたんだろう?特にボーカル入りのやつ。気になります。)

はー。とにかく圧倒されまくりでした。思うところを書き連ねてしまいましたが,これをノックアウトと呼ばずに何と言うのだろうかという気持ちになった作品でした。演出家の名前をタイトルに冠しても,ちゃんと張り合える作品。久々に拍手が疲れる舞台でした。あぁぁーよかった。今年のマイベスト3に入る作品です。満足。本当に満足!

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